ミュージカル『さよならソルシエ』

さよならソルシエ

ミュージカル『さよならソルシエ』

『さよならソルシエ』は『月刊フラワーズ』(小学館)で2012年〜2013年まで連載されたコミック。『このマンガがすごい!』2014年オンナ編で堂々の1位を獲得した作品である。誰も知っている19世紀末の画家フィンセント・ファン・ゴッホとその兄で画商のテオドルス・ファン・ゴッホの兄弟、この2人の関係を交えながらテオドルスが時代を切り開いていく様を描いている。史実の人物が登場するのに”フィクション”、虚と実の間であるのが、この作品の魅力でもある。これをミュージカル化、「ソルシエ(魔法使い)のようだ」と言われた天才画商のテオドルスに良知真次、現代では”炎の画家”で世界的に有名だが、生前は絵が一枚も売れなかったフィンセントに平野良がチャレンジする。テオを目の敵とする、フランス学士院お抱えの 美術評論家ボドリアールに窪寺昭、フランス学士院に属する芸術アカデミー派の権威ある画家ジャン・ジェロームに泉見洋平がキャスティング。その他にテオの策略に手を貸すことになる戯曲家のジャン・サントロに合田雅吏、アカデミー保守派に対立し、新たな芸術を巻き起こそうとする若手画家のアンリ・ド・トゥールーズ・ロートレックに土屋シオン、エミール・ベルナールに小野健斗、ポール・シニャックに吉田大輝。また原作では名前だけしか登場しないが、史実では フィンセント・ファン・ゴッホと親交の深かったゴーギャン役にKimeruと実力派ばかりが集まった。期待出来る布陣である。

舞台の端にピアノ、その調べは現代音楽のテイスト、酔っぱらった戯曲家のジャン・サントロが登場、そこへテオドルスがやってくる。ジャン・サントロに1つのシナリオを依頼、それは”炎の画家”、後に天才画家と言われたフィンセントの物語だ。この下りは2巻の後半に描かれている。物語はそこから遡る構成になる。

ジャン・サントロは常に傍観者、19世紀末のパリでの”出来事”を見守る立場で、原作に出てくるエピソードが次々と紡ぎだされる。ピアノの調べは多彩かつ繊細、時には不協和音で、時には明るい曲調で物語を彩る。芝居もこのメロディに合わせているかのようで、キャストは時には流麗に、時には激しく、作品世界を表現する。ダンス、台詞、音楽、マイム、背景に映し出される映像は絵の具のように様々な色彩で物語の世界を縁取る。画商のテオドルス・ファン・ゴッホは常にクールで時代の風を読み、権威主義的なアカデミー保守派にたおやかに、しかし真っ向から対立する。兄の絵は天才と言い、その他若い画家たちをも巻き込んでパリの画壇に一陣の嵐を起こす。そんなテオドルスをキレのあるダンスと歌、芝居で良知真次が体現する。100年先を読む先見の明、芸術アカデミー派の権威ある画家ジャン・ジェロームは面白くないが、高い地位を利用し、妨害する。狡猾なジェロームを泉見洋平が重厚な歌唱で芝居に深みを与える。当のフィンセント・ファン・ゴッホは今風に言えば”天然”、無垢で怒ることを知らない、見たものをそのまま受け入れ、感動し、それを絵にする。平野良がそんなフィンセントを軽やかに、ふんわりと優しく見せる。

ほとんどが実在していた人物であるが、物語は全くのフィクション、しかし、読んでいくとフィクションなのにリアリティを持って読者に迫る。その”リアリズム”をミュージカル仕立てにし、生身の俳優を使ってさらに息吹を吹き込む。拳銃を兄に突きつける弟、兄もまた銃口を弟に向けるシーンは鬼気迫るものがあり、圧巻。ここは原作も圧倒的な作画でぐいぐいと読者を引きずり込む下りだ。兄の芸術を高く評価する弟と、弟の行動力を賞賛する兄、一見上手くいっているように見え、実際にそれで歯車は回っているが、弟は兄に対して大いなるコンプレックスと劣等感を抱いていた。才能は「GIFT」とテオドルスは言う、神からの贈り物なのだと。しかし、自分にはこの「GIFT」は与えられなかったのだと。どうにもならない嫉妬心が渦巻く。だから2人の関係は”心地よい和音”なのかと思いきや、”不穏な空気をはらむ不協和音”、コインの裏表、裏は表になりたくても裏のままだ。そんな関係性を舞台全体で表現する。

さらに、芸術の本質論がかぶさってくるのが、この『さよならソルシエ』の大きな特徴のひとつだ。パン屋の店主が書いたパンの絵と技法にこだわった肖像画とどっちを買うか、のシーンはそれを如実に現している。また、実際に19世紀末、アカデミック絵画はヨーロッパ社交界に浸透しており、実際、ジャン・ジェロームは当時の美術界では超一流とされていた。ジャン・ジェロームが本当はどういう人物だったのかはともかく、権威主義的な人物として登場させ、芸術の本質をわかりやすく提示している。

脚本・演出は舞台『戦国BASARA』や舞台『武士白虎~もののふ白き虎』等で結果を出している西田大輔、音楽はミュージカル『リボンの騎士』等を手掛けたかみむら周平。

なお、ゲネプロ前に囲み会見があった。登壇したのは、良知真次(テオドルス・ファン・ゴッホ役)、平野良(フィンセント・ファン・ゴッホ 役)、 土屋シオン(アンリ・ド・トゥールーズ・ロートレック役)、合田雅吏(ジャン・サントロ役)、 泉見洋平(ジャン・ジェローム役)。

良知真次は「2.5次元の新たなジャンルを目指して、演出の西田さんとキャスト、スタッフが力を合わせて作ってきました」とコメント。役どころについては「原作では登場するだけでカッコいい、(そんな)テオになるために、今まで以上にクールに、熱く演じる」と語ったが、スタイリッシュなダンスと帽子の被り方でかっこよくサマになってたのは流石であった。平野良は、カンパニーを「男子校みたい」と笑いながらコメント、「今回は音楽だけでなく、映像との融合も素敵で、空間全体がすごく大人でムーディーで、おしゃれ」と作品を評した。また合田は「フィクションですが、”本当にこういうことがあったのでは”と錯覚するような世界観」と述べ、さらに「顔合わせの時に”2.5次元を超えた2.5次元”を作ろうと話していましたが、3.2ぐらいまでいったんじゃないかな(笑)」とコメント。泉見は「今回演じる役は若い芽を摘み、テオたちの情熱に嫉妬したり、焦りを感じたりします。だからこそ 自分の美学を守るために意地悪をします」と語ったが、その”悪役”ぶりで芸達者なところを見せた。土屋は「原作で好きなのは、テオドルスもフィンセントも天才的でありながら自分の才能に気づいていない鈍感さとそれに対して無自覚なのに“致死量に満たない毒”」とコメントし、「僕らや、舞台の板の上のキャラクターたちは皆テオの魔法をかけられています」と語ったが、物語では若い芸術家は皆、”テオの信者”になり、嬉々として芸術に邁進する。話している間、ちょっと突っ込み合ったりして楽しげな様子、男性しかいないカンパニーの気のおけない仲の良さを感じる会見であった。

さよならソルシエ

さよならソルシエ

さよならソルシエ

さよならソルシエ

[公演データ]
ミュージカル『さよならソルシエ』
2016年3月17日~21日
Zeppブルーシアター六本木
DVD発売決定
2016年8月3日 BD:9,800円+税/DVD:8,800円+税
仕様:Disc1本編/Disc2ボーナスディスク
http://www.marv.jp/special/m-sorcier/

© 穂積/小学館フラワーコミックスα
© ミュージカル「さよならソルシエ」プロジェクト

取材・文/高浩美
撮影/洲脇理恵(MAXPHOTO)

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