【レポート】劇団スタジオライフ 舞台版『はみだしっ子』制作発表会
劇団スタジオライフ 舞台版『はみだしっ子』制作発表会
三原順の傑作コミック「はみだしっ子」が初の舞台化となる。制作は『トーマの心臓』の舞台化で知られる劇団スタジオライフが手掛ける。その制作発表会が都内で開催された。原作者の三原順は1995年に夭逝してしまったが、同時期に漫画家デビューした笹生那実と脚本・演出の倉田淳との対談が実現した。
まずは対談から始まった。世代的にも近い2人、笹生はもちろん、倉田もリアルタイムで読んでいた“読者”だ。笹生那実の三原順との出会いは、デビュー直後だと言う。「横浜で行われた勉強会で初めて出会いました。当時、三原さんは20歳ぐらいで、グレアンみたいな人!小柄で可愛らしくって、投稿する人達のアイドルでした!みんなで絵を描きました」と当時の様子を語ってくれた。三原順は当時、北海道に住んでいたので、トランクを持っていたと回想する。「同じ仲間のくらもちふさこさんのところに行ってました」そして倉田淳から「作品の魅力は?」という質問が出た。笹生那実は「子供が主人公っていうのは当時では珍しかったですね。というのは、高校生の恋愛ものが主流だったんです。さらに子供の主人公が屈折した気持ちを忘れていない、親から虐待されている辛い子供が出てきますが、そうでない子供にも共感出来る、そして4人の子供の顔合わせが個性的」とコメントした。さらに「つきあってみると三原さんってアンジーみたいなところがあるんです」と原作者に近いところにいた笹生那実ならではのコメント。倉田淳は「深い言葉が出てきますよね。『はみだしっ子語録』も出版されましたね。三原ワールドの魅力は何でしょうか?」との問いに対して笹生那実は「当時は三原順さん大ブームでしたが、それは少年達が美しいのと女の子達が可愛らしいところから入っていって、そして内容的に深いところがあり、読みごたえがあって……魅力は一言では言い表せないですね〜しかもまとめ方が素晴らしく、人生を考えさせてくれます。三原さんの『ロング アゴー』も是非、読んで欲しいです。短編も……同じ漫画家としても感動してしまいます。絵も凄い!生まれ持ったものなんでしょうか……魂の底から出て来たような……」と語った。倉田淳も「魂がほとばしるような……それを舞台にさせて頂いて……」とコメント。笹生那実も「人間社会の闇部分も容赦なく、そして社会の荒波を教えてくれる……子供でも“こんなことあるんだよ”みたいな容赦ない描き方、社会の真実、辛い気持ちの子供が読むと救われていくところがあります」と語ってくれた。
物語の設定だが、4人の少年、グレアム、アンジー、サーニン、マックスはそれぞれに複雑な家庭の事情があり、心に闇を抱えたまま共に親元を離れて放浪生活をしている。転々とする生活をし、色々な人間に出会い、助けられ、裏切られながらも互いの絆を頼りに生きる、というものだ。
連載が始まったのは1975年、ちょうど第1次オイルショックの後、この頃の社会情勢もちょっと押さえておくともっと“深読み”出来るかもしれない。笹生那実はさらに「子供が(問題を)抱えていて、言葉には出来ないけど、それを漫画にしている」と語った。原作者は惜しくも鬼籍に入っているが「(存命だったら)もの凄い作品を描いていらしたかも」と早くにこの世を去ったことを倉田が惜しんだ。笹生那実は「本当に埋もれさせてはいけない作家だと思います」と力説した。さらに「亡くなった時に追悼の文集を作りたいと思ったのがきっかけで、通販だけで作ったらもの凄く注文が殺到して(笑)、さらに『はみだしっ子』以外の作品が読めないから読めるようにして欲しいという要望も来て、それで……まあ、運命的に、作品集が文庫で出るようにもなって……」と語り、そこから2015年に明治大学米沢嘉博記念図書館での「没後20年展 三原順復活祭」の開催につながったそう。これも三原順の作品に大いなる魅力があったからに他ならない。そして笹生那実は「舞台化はとても嬉しいですね。不安な方もいらっしゃるかもしれませんが、原作は原作、舞台は舞台、と思っています。作品の魂が受け継がれていれば!」と語り、対談は終了した。そして質疑応答の時間となり、昨今流行の「2.5次元」についての質問が出た。笹生那実は「2.5次元って言うくらいなので、ある程度はビジュアル的には近づけるんでしょうけれども、スタジオライフさんは女の子もおじさんが〜(笑)」と笑いを誘った。また「どう舞台化するんでしょうか?」という質問に対しては倉田淳は「あまりにも高い山で、あの言葉……欲張らずに(笑)、シンプルな舞台創りを」と回答した。
対談終了後は演出家及びキャストからの挨拶、まず演出・脚本の倉田淳は「漫画作品との出会いの最初は『トーマの心臓』、漫画作品の可能性……その後は『訪問者』もやらせて頂きました。『はみだしっ子』は“痛さ”が魅力だと思います。」とコメントした。それから各キャストの挨拶、今回はトリプルキャストとなる。なお、キャスティングされている山本芳樹と岩崎大は仕事の都合で残念ながら欠席となった。
<グレアム役>
仲原裕之:初めて三原作品に関わります。読んでみて倉田同様に「山が高いな」と。劇団全員で取り組んでいかないと三原順さんの思いに届かないですが、劇団だからこそ見せられるものを!グレアムは何故旅をしなければならなかったのかを(自分に)落とし込んで確かめていきたい。
久保優二:初めての三原作品です、原作を読んで感じたことを大事にしたい。
<アンジー役>
松本慎也:「はみだしっ子」は漫画という表現を超えた人間ドラマです。魅力的なキャラクターで、彼の抱える心の闇、他の3人の心の叫びを板の上で!演劇作品としてきちんと!
宇佐見輝:三原作品は初めてです。みんなで一丸となって!
<サーニン役>
緒方和也:僕が一番おじさんです!頑張ります!
澤井俊輝:心がキリキリする痛みを感じる作品です。
千葉健玖:素敵な言葉がたくさんあって、絵で描かれている“目”から伝わってくるものがある。自分の作品に対する印象を伝えられたら。
<マックス役>
若林健吾:僕が持ってない深いものを持っている役です。言葉を大切にしてやっていかないと、思います。
田中俊裕:読んでみて、このマックスって子は甘ったれだなって思いましたが、他者を愛する、他者から愛されるというピュアな気持ち……突き詰めていくとそうなるんだな……というのを体現したい。
伊藤清之:劇団でも一番下っ端です!お兄さんが11人いるので頑張ります!
一通りの挨拶が終了したところで松本慎也は「僕達はこの三原作品『はみだしっ子』のファンです。ファンの方々と同じ熱意で!」と意気込んだ。
【公演データ】
舞台版『はみ出しっ子』
2017年10月20日〜2017年11月5日
東京芸術劇場シアターウエスト
原作:三原順
脚本・演出:倉田淳
※8月公演は、スタジオライフ公演『卒都婆小町』
2017年8月17日〜9月3日
同時上演『深草少将の恋』
シアターモリエールにて。
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