【レポート】舞台『クジラの歌は砂上に歌う』

クジラの歌は砂上に歌う

舞台『クジラの歌は砂上に歌う』

梅田阿比原作の『クジラの子らは砂上に歌う』 (秋田書店「月刊ミステリーボニータ」連載中)、2013年より連載が開始され、現在、単行本は既刊6巻。『このマンガがすごい!2015』オンナ編において10位にランクイン。さらに『次にくるマンガ大賞』にノミネートされている。作画の繊細かつ圧倒的なタッチと空気感、描かれている世界、登場人物たちの心の機微が読者を惹き付ける。
砂が全てを覆い尽くす世界で、砂の上に浮かぶ巨大な漂泊船“泥クジラ”は、農園も工房も貯水池もあり、 自給自足を行える浮き島のような場所となっている。 住人たちは感情を発動源とする情念動(サイミア)を使える「印(シルシ)」と呼ばれる短命の能力者と、 能力を持たない⻑寿のリーダー的存在「無印(むいん)」がおり、513人が共に生活していた。 何故、彼らが砂の海をさまよっているのか。「外界から閉ざされた“泥クジラ”で短い一生を終える」 その運命を受け入れる主人公チャクロたちは、ある日流れてくる「島」で少女に出会う……。

舞台にはなにもない。砂浜をイメージ、八百屋舞台で奥行きを出している。幕開きはキャラクターが登場し、祈りのシーンから。中央にスオウ(崎山つばさ)、「我々を導きたまえ」と言う。主人公のチャクロ(赤澤燈)はこの物語の語り部であり、記録係でもあるが、彼はとにかくなんでも記録し続ける病にかかっていた。この泥クジラの住人の9割は短命の能力者、その抗えない運命が彼らに影を落とす。チャクロたちが出会った少女・リコス(前島亜美)、彼女は、実は泥クジラの住民に敵対する帝国軍の人間であった……。
ファンタジックな設定であり、登場人物たちは生きることに懸命だ。短い命だからこそ、力強く生きる。チャクロは14歳の少年、その年齢らしい無邪気なところもあるが、非情とも言える状況でも友や仲間を思いやる。そんな主人公を赤澤燈が体現する。翳りのある少女・リコス、チャクロ達の優しさに触れ、徐々に心を開いていく変化を前島亜美が渾身の演技で健闘。帝国軍が泥クジラを攻撃するには訳があった。”処刑”と言い放ち、チャクロたちにはなんのことだがわからなかったが、その”秘密”が明らかになり、絶望的な状況でも帝国軍に立ち向かっていく。

主人公はチャクロだが、群像劇の要素もあり、全てのキャラクターの生き様や人間関係を見せる。泥クジラで生まれ育った少年少女たちは狭い世界で生きていたが、その分、外の世界に憧れを抱いていた。チャクロたちの生きる世界、生と死は隣り合わせだ。それでも優しいスオウ(崎山つばさ)、一見不良だが、熱いハートの持ち主であるオウニ(山口大地)、甘えん坊だが、チャクロに対して究極の愛を捧げるサミ(宮﨑理奈)、チャクロを庇って絶命するシーンは感涙、また、団長(五十嵐麻朝)はめっぽう強いクールキャラと皆、共感出来るキャラクターだ。

帝国軍の兵士たちは皆、ピエロの仮面を被って登場、無表情で無機質、圧倒的な不気味さを漂わせながら、刀を振り回す。避けた口、白過ぎる顔がかえって恐怖心を煽り、実に効果的な表現である。また、白いシフォンの衣装をまとった女性ダンサー達が登場するが、その時の状況に応じて様々な役割を果たす。とりわけ、印を持った者が超能力を発揮する場面では、その技をダンサー達が担う。映像の進歩が著しい昨今であるが、テクノロジーも上手く利用しつつ、の表現で、ここは見どころ、布も効果的に使い、前衛舞台のごとくに変化させる。アクションシーンは皆達者で、迫力満点であった。全体的にはオーソドックスな演出、脚本もわかりやすく、原作を紐解いてみたくなる作品に仕上がっていた。脚本・演出は松崎史也、気鋭のクリエイター、音楽はYu(vague)、テーマ曲『スナモドリ』や挿入歌『日記』(如月愛里)は印象に残る。
なんのために生きるのか、人は何故戦うのか、愛すること、思いやること等、そのテーマは深淵で根源的だ。アニメ化されていない分、俳優陣はクリエイティブな作業をしなければならない。その成果が舞台で発揮されており、この舞台からアニメ化されてもいいぐらいの出来映え、コミックの舞台化の可能性が、またひとつ増えたような気がする。

なお、ゲネプロ前にフォトセッションと会見が行われた。
山口大地(オウニ役)は「アニメ化されていないので、キャラクターが動いたりしゃべたりする姿を想像出来ないと思うんです。舞台では役者、アンサンブルのみんな、演出の松崎史也さん、スタッフの皆様、一緒にキャラクターの人生を具現化しています」とコメント。崎山つばさ(スオウ役)は「今回の舞台は役者として”生きてるな”っていう感覚がすごくあります」と語った。さらに「身体を使って表現できることを全部やったり、布を船に見立てたり、ほかにもいろんなものに変わったりとか。『演劇って素敵だな』っていうのが見どころです」とコメントしたが、この布が自在に変化して場面を雄弁に語り、”もう一人のキャスト”の如くに活躍していたのが印象的であった。前島亜美(リコス役)が「今とても盛り上がっている2.5次元の舞台に出演させていただくことがうれしくて、始まる前からワクワクしています。原作を読ませていただいて稽古していく中で、『クジ砂』が心から大好きになりました。好きだからこそもっとたくさんの方に『クジ砂』のよさを知っていただきたいと思って、毎日稽古をがんばってきました」と語ったが、初日の終演後の挨拶ではホッとしたのか、感極まって涙ぐんでいた。赤澤燈(チャクロ役)は、天気がちょっと雨模様だったので「僕、すごい雨男なんですよ。ここ最近、出演する舞台の初日はほとんど雨なんです。でもこの作品の『泥クジラ』という船で暮らす人たちの中では、雨は生活水として凄く貴重な恵みの雨なんですね。だからこの公演にとっても恵みの雨になればいいなと思ってます」と、自分の雨男ぶりをアピール、さらに作中の設定を絡めてコメント。「この舞台は何がいいっていうと、もちろん、作品もいいんですけど、人(人柄)がいいんですよ。ここに集まってる人も裏にスタンバイしてる人も、アンサンブルと言われる方々も、1人ひとりが自立して同じ方向を向いて、作品を作っていくスタイルがすごく素敵です。素敵な人が集まった素敵な空間です」と語った。「ひとりでも多くの方に見ていただきたいのはもちろんですが、広がって広がって、原作ももっと知名度が上がっていけばいいなと思うので、この作品を通して(観客の皆さんに)届けて、広げていければなと思っております」と締めた。

クジラの歌は砂上に歌う

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クジラの歌は砂上に歌う

【出演】赤澤燈/前島亜美(SUPER☆GiRLS)/山口大地/崎山つばさ/碕理人/佐伯大地/宮﨑理奈(SUPER☆GiRLS)/大野未来/五十嵐麻朝 他

舞台『クジラの子らは砂上に歌う』
2016年4月14日~4月19日
AiiA 2.5 Theater Tokyo
http://kuji-suna-stage.com/

©「クジラの子らは砂上に歌う」舞台製作委員会

撮影/洲脇理恵(MAXPHOTO)
取材・文/高浩美

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